スサノオ小説

最終章「シラス国誕生」

最終章「シラス国誕生」

『分かった!こいつだけは助けるんだ!』

『俺はお前たちの言うことを聞く。』

スサノオは覚悟を決めた様に言った。

『スサノオ様!それはいけません!あなたはまだ、やることが沢山あります!』

悪魔に取り押さえられたヒョロは身体を前のめりに言った。

『それに私を黄泉の国に連れて行き、母上に会わせる約束はどうなったんですか?私はスサノオ様を信じたから許したんです。私はこれから先、どうやって生きていけば良いのですか?スサノオ様が悪魔になれば私みたいな者がもっともっと沢山増えます。それだけはやめてください。私でやめられるのであれば私はいつ死んでも構いません。母上様とはあの世で会えるでしょう。私のことは構いませんから。どうか、善に心を留めてください。』

ヒョロは涙を浮かべながら言った。

『なにをたわごとを言っておる。』

ボスは言った。

【ドン、ドン、ドン】

岩戸の前で何やら賑やかな音がする。

『おぅ、何だあの騒ぎは?そうか?神々もアマテラスに不満を抱いていた者がいたんだなぁ』

ボスが言った。

『なにやらアマテラスの代わりが現れたと宴会が始まったみたいです。』

悪魔の子分が言った。

『それはもしかして俺たちのことではないか?』

ボスが言った。

『ハッ、ハッ、ハッ、ハッ』

『おぅ!そうだ!そうだ!』

その頃、神々はアマテラスに良く似た神様が現れたとドンチャン騒ぎをし、アマテラスを誘き出そうとしていたのである。

『すまん。ヒョロよ。お前だけは殺せない。あいつらの言っている通りだ、俺は何一つ良いことをしていない。最後にひとつだけ良いことをしたいんだ。さぁ、もう良い、その刻印を押すのだ。早く!押すんだ!』

スサノオは考えた。俺はこれまで一度でも良いことをやった事があるだろうか?こいつらが言う通り、何ひとつやっていない。

それに、誰からも信用してもらっていない。

それは全て自分のせいだ。

最後にひとつだけ良いことをしたい。

それがヒョロを助けることだった。

『俺たちの仲間になるんだな、さあ意思を固めよ!』

ボスは言った。

『ダメです!スサノオ様!』

ヒョロは悪魔の手を掴んだ。

すると尖った爪を思いっきり自分の腹に引っ張った。

『うっ!』

ヒョロがいた地面が真っ赤に染まる。

『ヒョロ!』

コマが叫ぶ!

ヒョロはスサノオの目を見ながら強い意思を伝えた。

視界が薄れる。

ヒョロはその場に倒れこんだ。

『ヒョロ!止めるんだ!ヒョロ!』

スサノオは叫ぶ。

『ヒョロ!』

スサノオは泣き叫ぶ。

『お前たちよくも』

スサノオの怒りは頂点に達した。

『ウォ〜』

凄まじい形相で全身の筋肉が隆起する。

風が吹き荒れ、竜巻が起きた。

大地は揺れ、火山が噴火し海の水が荒れ狂う。

物凄い音を立て、海はうねりものすごい高さの津波になった。

【ゴォ〜】

凄まじい音ともに津波が近づいてくる。

『ヒョロ!ヒョロ!お前ら絶対に許さん!皆殺しにしてやる!』

凄まじい勢いで津波が押し寄せる。

『スサノオ!辞めるんだ!悪魔だけではなく、全ての神々も巻き添いになってしまうぞ!』

コマが慌てて叫んだ!

『許さん!許さん!』

スサノオの顔は鬼の様な形相で何も聞こえない。

すると悪魔達もその場を逃げ始める。

『おぃ!お前達逃げるな!もう少しなんだ!』

ボスが怒りながら言った。

【ギャ〜】

悪魔達はボスの言葉を無視して逃げる。

『畜生!あと少しだったのに』

ボスが悔しそうに言った。

『スサノオ!辞めるんだ!俺も死んでしまうじゃないか?』

コマが叫ぶ!

津波はさらに高くなり、島々を飲み込む。

ついに高天原の高さに到達した。

『あ〜もうダメだ!』

コマが叫んだ。

コマは覚悟した。

そして、その津波に飲み込まれようとしたその瞬間。

【ピカ!】

眩いばかりの光が。

その光の筋が悪魔を貫いた。

さらにその光の筋は無数に広がる。

悪魔たちはたちまちその光に焼かれ、灰になって消えてしまった。

『おい、何が起きたんだ!俺は生きておるのか?』

コマが叫ぶ。

倒れ込んでいたヒョロの姿がどこにもない。

『ヒョロ!ヒョロよ!どこへ行った!』

スサノオが声を震わせながら言った。

スサノオは我を取り戻し、ヒョロを探し始める。

『俺にはお前しかいないんだ!早く出てこい!ヒョロ!どこに隠れてるんだ!』

スサノオは大切な友達を失った。

それもまた自分が犯した罪のせいで

『ヒョロよ、頼むから…』

『ただ隠れているだけなんだろう?』

『もういいから、早く出て来てくれ。』

『ヒョロ』

『もう、頑張らなくていいから。』

『俺のこと思いっきり恨んでいいから。』

『早く出てくれ。』

『隠れてるだけなんだろう!隠れているだけなんだろう!』

『もう〜いいかい!』

スサノオは叫んだ。

『もう〜いいかい!』

『ヒョロ出てくるんだ!隠れているだけなんだろう!』

コマが叫ぶ

『ヒョロ!ヒョロ!』

『もう〜いいかい!』

『もう〜いいかい!』

高天原中に聞こえる様に大きな声で叫んだ。

『もう〜いいよ。』

ヒョロの声が聞こえた。

『ヒ、ヒョロ、ヒョロなのか?』

スサノオが振り向くと、そこにヒョロが立っていた。

『ヒョロ!』

スサノオは叫んだ。

『スサノオ様!』

二人は互いの胸に飛び込み、強く抱きしめた。

『ヒョロ!本当にヒョロなんだな!本当にヒョロなんだな!良かった。本当に良かった。』

『私もスサノオ様に会えて良かったです』

二人は泣き崩れる。

『本当に良かった。本当に良かった』

スサノオは何度も叫んだ

『俺のこと忘れるな!』

コマが飛んできてヒョロの顔にキックする。

『すまんすまん。』

ヒョロは笑顔でコマに謝る。

『お前どこに行ってたんだ!』

スサノオが安堵した顔でヒョロに尋ねる。

『私にも分かりません。激しい痛みに耐えきれず、気が枯れそうになったとき、眩ゆい光が射し、痛みが和らいだと思った瞬間、身体が宙に浮き、スサノオ様の声が聞こえてきたんです。』

『気付いた時はここに立っていました』

ヒョロが言った。

『眩ゆい光?』

『それは、お姉様だ。アマテラスお姉様にきっと違いない』

すると、神々が宴会していた場所から歓声が聞こえる。

『アマテラス様が戻って来たぞ!』

『おぅ!アマテラス様だ!』

『なに、お姉様が?』

スサノオは言った。

『はい、アマテラス様が帰ってきたみたいですね。』

ヒョロは言った。

そうである。

アマテラスが岩戸から戻って来たのである。

アマテラスが岩戸を出ると再び高天原には光が戻り、枯れた草木も緑を取り戻し、水は透き通り、新たな食べ物が実を付け出す。

『ヒョロ、やっぱりそうだ!お前を助けてくれたのはアマテラスお姉様だったんだ!』

スサノオが笑顔で言った。

『そうですね。スサノオ様。』

ヒョロも笑顔で言った。

高天原の神々はこの事件でより一層アマテラスを中心にひとつにまとまる。

『アマテラス様、あなた様は高天原の象徴です。私たちにはあなた様が必要なのです。あなた様がいなければこの世は闇に包まれ、悪魔に支配されます。どうか私達の太陽であり続けてください。後は私たちが力を合わせてこの世を守ります。』

神々は言った。

『私は何も出来ませんが、民衆が主役の民衆のための国、シラス国を作りをしたいと考えております。』

アマテラスは凛とした表情で言った。

『アマテラス様、ありがとうございます。その慈愛をありがたく頂戴いたします。これからもどうぞ温かい眼差しで見守ってください。共にシラス国を作りましょう』

神々はアマテラスを囲み、笑顔で言った。

『スサノオ様、本当に良かったですね。』

ヒョロが言った。

『そうだな、本当に良かった。』

スサノオが何か吹っ切れたような表情で答えた。

『やっぱりお姉様は凄い。お姉様は戦わずしてこの問題を解決した。』

『俺は何かをやるたびに問題を起こす。』

『しかし、お姉様はなにもやらなくても皆んなが幸せになれる。』

『俺もあんなお姉様の様な神様になりたい。』

『本当に助けてくれてありがとう!本当に感謝してます。アマテラスお姉様。』

スサノオの顔は晴れ晴れしていた。

『スサノオ様!』

ヒョロは驚いた。スサノオの言葉から感謝という言葉が出て来たからである。

『なんだ、ヒョロ。』

  スサノオは言った。

『今、感謝って言いましたよ。』

ヒョロは言った。

『そうだなぁ本当にそう思うんだ。』

『心の底からそう感じるんだ。』

『俺もヒョロの母上が言ってた事を少しだけ分かった様な気がする。』

『スサノオ!お前もやっと大人になったみたいだなぁ。』

『しかし、早くその鼻水を拭け!』

コマが言った。スサノオは笑いながら腕で鼻水を吹く。

『スサノオ様、ありがとうございます。』

ヒョロが言った。

3人は目を合わせ、笑った。

スサノオはこの一件で罪を認め地上へと追放された。

そして、ヒョロとコマと共に出雲に降り立った。

スサノオは地上へ降り立つと、素晴らしい活躍を見せる。

スサノオが活躍する話はまた、今度としよう。

こうやって、神々の意思は私達の人間界に繋がっていったのである。