スサノオ小説

第13章「魔王の登場」

第13章「魔王の登場」

『スサノオよ。お前はまだまだじゃ。お前はただ感情をコントロール出来ず、力任せに暴れているだけ。まだまだ未熟じゃ!』

どこからともなく低い声が聞こえてくる。

『ま、魔王様!』

『なに!お前がボスか!なぜ隠れている。早く出て来い!』

スサノオが言った。

『ハッ、ハッ、ハッ、ハッ。なんだ怖いのか?』

ボスが高笑いをする。

『お前こそ、身を隠して怖いんだろう!怖くないのならここに出て来い!』

すると、風が吹き、葉が舞い、枯れ木だった無数の二本の大木が揺れ始め、枝と枝が絡み合う。

枝は絡み合いながら二つに分かれる。

二つに分かれた枝はしなる様に地面を叩きつける。

幹には不気味な顔が浮かび上がる。

その瞬間、険しい形相と共に一斉にスサノオを襲いかかった。

枝がスサノオの手に絡みつく。

スサノオは力任せにその枝を振り払う。

しかし、次々と枝が手足に絡みつく。

『スサノオ様、大丈夫ですか?』

ヒョロが不安そうに言った。

スサノオは絡んだ枝を振り払うが、さらに勢いを増して次々に絡みつく。

遂にスサノオは両手両足を縛られた。木の化け物はスサノオを山肌に叩きつけられる。

【ドン!】

スサノオは山肌に大の字に押さえつけら、山にめり込む。

『スサノオ様!』

ヒョロが心配そうに叫ぶ。

さっきまで横にいたコマがいない。

すると、コマはスサノオの手に絡みついた枝をかじっていた。

『コマ!』

『待ってろ!俺が噛み切ってやる!』

コマが必死にかじる。

『クソ!なんて強さだ。俺様の歯がビクともしない』

コマの歯が全く通じない。

『なんのこれしき!コマ!身を隠すんだ!』

スサノオはコマに避難する様に言うと、全身の力を集中させ、腕を寄せる様に力を入れた。

その瞬間、地面が盛り上がる。

【メキメキメキ】

地面から木の根っこが浮き上がってくる。

それでも必死に土にへばりつく木の化け物。

木の化け物は土に張り付いた根っこから引っ張り出され、木は互いに叩きつけられた。

さらにスサノオは自分を軸に凄まじい勢いで回り始めた。

木々は四方八方弾き飛ばされた。

『ハッ、ハッ、ハッ、ハッ。流石はスサノオ。良くやるではないか』

『それではこれはどうかな?』

激しい音と共に地上の水が複数の柱となり、渦を巻く様に宙に舞い上がった。

『スサノオ様、これはなんですか?』

激しい音にかき消されながらヒョロが叫ぶ。

『俺にも分からん』

腕で顔を塞ぎながらスサノオが答える。

水の柱は塊となり、互いがぶつかり合い、化け物に変身した。

それはスサノオの10倍近い大きさだった。

『スサノオよ、その力任せのお前がどれだけ通用するかな?』

『さあ、スサノオよ、かかって来い!』

『何を言ってる!俺様を誰だと思っているんだ!』

スサノオは地面を蹴り上げ水の化け物に拳を叩きつけた。

『どうだ!』

スサノオの拳は化け物の顔にめり込んだ。

その瞬間、スサノオは拳毎顔にめり込み、そのまま化け物を貫通した。

『ハッ、ハッ、ハッ、何をやっとる。お前の拳は全く効かないじゃないか』

ボスは嘲笑うように言った。

『チクショ!』

スサノオはさらに攻撃するが、全くパンチが効かない。

今度は化け物がパンチを繰り出した。

スサノオはそのパンチを避け、腕を摑み取る。

しかし、掴んだ腕はその場で飛び散り水になる。

スサノオが前に倒れこんだ瞬間、もう片手のパンチがスサノオに炸裂した。

スサノオは吹き飛ばされる。

『スサノオ様、大丈夫ですか?』

ヒョロが心配そうに言った。

化け物のパンチが次々と襲ってくる。

スサノオもパンチで応戦するがことごとく、飲み込まれ全く効果がない。

『どうしたら良いんだ。』

『スサノオ様、力に頼らず考えるのです。何か良いアイディアはないのですか?』

ヒョロは頭で考えることを促した。

『そうだ!』

スサノオはある事を思い出した。

すると、化け物をおびき寄せる。

『さあ、化け物よ!かかって来い!』

スサノオはじりじりと後ろに下がりながら化け物の距離を図っている。

『さあ、どうした!』

その瞬間、化け物が襲って来た。

『今だ!』

スサノオは身をかわし、化け物の後ろに回り、平らな岩で叩きつけた。

化け物は白い山に叩けつけられめり込む。

山は粉々に砕け、化け物の水と融合した。

その山は高天原へ向かう時にコマが言っていた石灰の山だった。

化け物はその場で固まってしまった。

スサノオは勝利した。

『スサノオ!でかしたぞ!よく覚えていたなぁ俺はすっかり忘れていたぞ』

コマは嬉しそうに言った。

『おぃスサノオ!こっちをみろ!』

悪魔がヒョロの両腕を掴み、人質に取った。

すると、青い霧が立ち込み、うっすらと黒い姿が浮き上がる。身体には鎧の様な硬い鱗が張り付き、長い手足に長い指。

爪はナイフの様に尖り、高い鼻は途中で折り曲がり、目は窪み、羽の様なまつげが付いている。

吐きつける様に息をしたかと思えば、ネバネバした黄色い液体を地面に吐きつける。

地面を逃げ惑う動物達はたちまち石と化した。

遂に悪魔のボスが現れたのである。

怒りと憎しみに取り憑かれた不気味な表情だった。

『こいつの命がどうなっても知らないぞ。』

ボスがヒョロの首を掴み持ち上げた。

ボスの尖った爪がヒョロの首をかすめる。

『おい。お前ら卑怯だぞ!』

スサノオが言った。

『卑怯?よくお前の口から言えたもんだ。お前がやったこれまでの行いを思い出してみろ!お前が泣くたびに海は荒れ、大地は揺れ、山は噴火し、豪雨は起きる。その度、多くの命が失われた。お前が全てやったんだ。』

ボスは言う。

『それは違う!俺は母上に会いたかっただけなんだ!』

スサノオは言った。

『なにをガキみたいなことを言っている!その未熟な心が、この悲劇を起こしたんだ。そして、我々を呼び起こした。スサノオよ、お前こそ我々と同じ悪魔なんだ。』

ボスが言った。

『それは違う!俺は悪魔なんかではない。』

スサノオが言った。

『では、なぜお前は父イザナキの使命をまっとうしなかった!そのせいでイザナキはお前を見捨て隠居したではないか?』

ボスは言った。

『それは違う。俺の言うことを聞いてくれただけだ!』

スサノオが言った。

『いいや違う。ではイザナキはどこへ言った?』

『それは…』

スサノオはハッキリと答えることが出来なかった。

『よく考えてみるんだ。お前が生まれてここまで、何かひとつでも良いことをしたか?お前はなにひとつやっていない。自分の感情が赴くままに泣き叫び、多くの命を奪ってきた。それがスサノオ、お前なんだ。』

ボスは言った。

『おいおい、あいつが言っていることは図星じゃないか?言い返す言葉も見当たらない。』

コマが独り言を言う。

ボスが言っていることは図星だった。

しかし、スサノオは認めたくはなかった。

『では聞くが、神々はお前のことを信用したか?ひとりでもお前を信じてくれた神はいたか?』

ボスは言った。

『そ、それは…』

スサノオは俯きながら答えた。

『どうだ!いないではないか!』

ボスは念を押した。

『いや、いる。アマテラス姉さんが信じてくれた。』

スサノオはスッと顔を上げて思い出す様に言った。

『それはどうかな?そのアマテラスも最後はお前を見捨ててもうここにはいないぞ!スサノオ、よく考えるんだ!お前は俺たちと同じだ。こっちにくれば、今まで通り自分がやりたいことをやりたいように好きにやれるぞ!お前がやって来た今まで通りでいいんだ。俺たちの仲間になるんだ。誰もお前を責めるものはいない。むしろお前は俺たちの親分になるんだ。』

ボスはさらに追い詰める様にスサノオに言った。

『いよいよ、追い込まれてきたぞ』

コマが独り言を言った。

『スサノオ様、聞いてはいけません。悪に対して悪で返してはいけません。やはりこの戦いは初めから間違っていたのです。』

ヒョロはスサノオをなだめるように言った。

『だまれ!お前、殺すぞ!』

ボスが言う。

『やめるんだ!そいつは俺の唯一の友達なんだ!』

スサノオは顔を強張らせながら言った。

『ほぅ〜、それは面白い。スサノオ、よく考えるんだ。こいつが殺されるか、お前が俺たちの仲間になるか?どのみち、お前はとんでもないことをしでかした。もう帰る場所なんかないぞ。』

ボスは笑みを浮かべながら言う。

『スサノオ様、そんなことはありません。いくらでもやり直せます。』

ヒョロは言った。

『お前は黙れ!』

思いっきりヒョロが殴られる。

【バチ!】

『止めるんだ!』

その瞬間、背後から無数の悪魔たちがスサノオの両腕と両足を掴まみ鎖で繋ぐ。

『どうだ、スサノオ!これで、手も足もでまい!』

ヒョロをその場に下ろすとボスは言った。

『これを見てみろ!これは呪いの土だ!お前の命の水をせき止め、お前をミイラにして閉じ込めてやる。それが嫌なら、この刻印を押すのだ。この刻印を押されると、お前の意思と繋がり、もう戻れなくなる。さあ、意思を固めろ!こいつも死んでお前もミイラになるか。それとも俺たちの仲間になるか?』

ボスが言った。