スサノオ小説
第11章「悪か正義か」
第11章「悪か正義か」
【うぉ〜】
地響きのような叫び声が高天原に響き渡る。
すると地面のいたるところから悪魔が現れた。
『きゃ〜ヨモツシコメだ!』
巫女が叫ぶ。土の中から数え切れないほどの悪魔が現れる。
顔は醜く、ただれた肌は、触れたもの全てを溶かすヌベヌベした液体がすたたり落ちている。
『シコメだ!魔力によって力を奪われるぞ!』
そうである。黄泉の国でイザナキを襲った悪魔。ヨモツシコメが土の中から現れた。
巫女達が声を上げる。
闇に閉ざされた高天原は鮮やかな色を失い、死の世界へと変わっていった。
風神が風の力で悪魔を吹き飛ばす。
さらに水神が洪水を起こし、シコメを飲み込む。
雷神もシコメに雷を落とした。
『神よ!やるではないか?』
デカイ棍棒を振り回りながら真っ赤な鬼が現れた。
赤鬼は不気味な笑みを浮かべなが棍棒を回り始める。
『さぁ、これでどうた!』
赤鬼が回す棍棒に竜巻が起こる。その竜巻が勢い良く天へと立ち上がった。
ひとつの柱になった竜巻は降り付ける雨も荒れ狂う川も天を貫いた。
神の力は赤鬼によって封じ込められた。
『うっ!力が失われた!』
風神か何度もうちわで扇ぐが、風が起こらない。
『どうだ!もう手も足も出ぬだろう!』
赤鬼が棍棒を振り回しながら低い声で言った。
『この闇の中ではお前たちに勝ち目はないぞ!』
『はっはっはっは〜』
赤鬼は高笑いをする。
『さぁ、襲い掛かれ!』
無数のシコメが神々に襲いかかる。
『大変だ!このままでは高天原が崩壊するぞ!』
力をなくした神々にはどうすることも出来なかった。
『ヒョロ、なんだ、この闇は。』
スサノオが言った。
『スサノオ様、アマテラス様がスサノオ様をかばいきれず、岩戸に隠れたそうです。』
ヒョロが答えた。
『何、姉上が?』
スサノオは驚く。
外では、シコメたちが次から次へと神々を食い殺していく。
『なんだ、こいつらは。わぁ〜助けてくれ!』
神が言った。
『スサノオ!これはすべてお前のせいだ!お前の身勝手がこんな事態を招いたんだ!』
逃げ惑う神がスサノオへ言い放った。
『スサノオ様、どうにかしないと大変です。』
ヒョロが言った。
『よし、かかって来い!』
スサノオは凄まじい力でシコメを掴んでは千切り、なぎ倒す。
襲いかかる無数のシコメに岩を抱え、力任せに投げつける。
シコメ達はスサノオが投げた岩に弾き飛されるが、次から次へと限りなくシコメたちが襲い掛かる。
スサノオの手にしがみつくものも出て来た。
無数のシコメはスサノオに襲い掛かり、スサノオの姿が見えなくなった。
スサノオは全身の力を炸裂させ、両手を大きく大の字にすると、シコメは弾き飛ばされた。
『これではキリがない。ヒョロ!コマ!ひとまず退散するぞ』
スサノオはひとまず退散し、作戦を練ることにした。
『はい、それが良いと思います。』
『スサノオ様、あそこに洞窟があります。洞窟の入り口に桃がなっているからシコメは近寄れないはずです。あそこに隠れましょう』
ヒョロが言った。コマもヒョロの背中に乗り、3人は洞窟に身をひそめる。桃は厄除けだった。
『おいおい、これは一体どう言う事なんだ!本当に厄介なことに巻き込まれてしまったぜ』
コマがふてくされながら言う。
『おぃ、ヒョロよ。これも俺が起こしたことなのか?』
責任は自分にあるのか?スサノオは疑心暗鬼に質問した。
『はい、おそらく。』
ヒョロは気を使う様に答えた。
『俺はただ、嬉しかっただけなのに…』
スサノオは言った。
『そうだ!そうだ!』
コマもスサノオに同調する様に言った。
『コマ!お前にも責任があるんだぞ!』
ヒョロはコマを叱る。
『どうして俺たちの責任なんだ!俺たちはちょっと騒いでただけじゃないか?第一あの馬が一番悪いんだ。お前だってそこにいたじゃないか。スサノオ様が助けなければ俺たちは今頃どうなってたか。お前にも分かるだろう!』
コマは言った。
『それはそうだけど…。』
ヒョロはうつむきながら言い、しばらく口をつむいだ。
『どうした?正直に言って良いいんだぞ』
スサノオは顔を上げて言った。
『いいえ、ただスサノオ様はご自分の力の使い道を知らないだけなのです。』
ヒョロは言った。
『使い道?』
スサノオは顔を傾げた。
『はい、使い道です。』
ヒョロは言った。
『俺はまだ、この力は何にも使ってないぞ。』
スサノオは頭を傾げた。
『そうですね。まだ使っていませんね。でも、知らず知らずのうちに力を発揮していらっしゃるのです。』
『発揮してる?』
スサノオは顔を見上げた。
『はい、スサノオ様が何かをやればとんでもないことが起きます。』
『その力を意識的に良いことに使えば、きっと多くの人に沢山の恵みを与えるはずです。』
『良いこととはなんなんだ?』
『それが分かれば良いですが…私もそれは分かりません。』
『ただ、母上がこう言ってました。』
『もし、あなたが大きくなって立派になったら、その力を誰のために使うのか考えなさい。』
『力は決して自分のために与えられるものではないのです。』
『あなたが今与えられている力も多くのものから試練を与えられて、その試練を乗り越えるたびに強くなっているのです。』
『つまり、あなたの力は誰かによって与えられたものなのです。』
『その事に感謝できる様になれば、きっとその力の使い道を理解できるようになります。』
『こう言われました。』
ヒョロは母を思い出しながら言った。ヒョロの話をコマは食い入る様に見ていた。
『ヒョロよ、俺はお前がそんなに立派な奴だとは、全く気づかなかった。ここ数日お前を見ていたが、お前は本当に立派な奴だ。見た目はヒョロヒョロして頼りないが、お前とだったらなんでもやれる様な気がする。』
コマは初めてヒョロを認めた。
『なるほど、感謝か?』
スサノオは考える様に言った。
『はい、感謝です。』
コマはスサノオから感謝という言葉が出たことにびっくりする様に見ていた。
『ところで感謝とはなんなんだ?』
スサノオはとキョトンとした顔して答えた。
『いや〜それは…』
ヒョロとコマは苦笑いをする。
『感謝は考えるものではない感じるものだと母上は言ってました。』
『俺もそんな気持ちになる時が来るんだろうか?』
『きっと、来ますよ。』
『しかし、お前を見ていればなんだか、心が穏やかになるな。』
スサノオはコマを肩の上に乗せて笑顔で言った。
『あ、ありがとうございます。』
ヒョロは言った。
『まずはあいつらをどう退治するか作戦を立てるぞ。』